阿吽34 スカイツリーと空の月 粟谷能夫

今年五月に東京スカイツリーが開場となりました。隅田川の業平橋のほとりです。業平といえば「伊勢物語」。業平東下りの段(九段)に隅田川が描かれています。

 

 「昔、おとこありけり。そのおとこ、身を要なき物に思ひなして、京にはあらじ、あずまの方に住むべき国求め・・・」

 

 と、東下りの冒頭です。やがて隅田川に至り、

 名にし負はば いざ事とはむ都鳥

   我が思ふ人はありやなしや

 

と詠むと、「舟こぞりて泣きにけり」とあります。

 能『隅田川』はこの和歌を元に構想されたものです。子を捜し都より東の地、隅田川までやってきた物狂いの女(シテ)は、この歌をひき、「ありやなしや」と問う心は業平も自分も同じと訴えます。このようなよい場面を織り込みながらも、救いの無い母と子のドラマを生み出しました。しかしここには、母親の子に対する深い慈しみの心や、温かいまなざしが投影されております。

 

 私の子どもの頃は東京といえども高層ビルも無く、高い所へ上るといえば、電波塔ぐらいでした。東京タワーができるまでは、各放送局が電波塔を持っていたのです。私も赤坂プリンスホテル辺りにあった電波塔に連れて行ってもらったことがあります。大変高くて少し怖かったことを覚えています。

 

 東京タワー開場の折には、母に連れられて妹と共に展望台までエレベーターで上り、下りは歩いて階段を下りた記憶があります。その折、日付入りのメダルを買ってもらい嬉しかったこともよい思い出です。

 

 また今年は金環日食や金星の太陽面通過等、天体ショーがあり、皆専用メガネ等で空を見上げる様子をテレビ等で見ました。私の頃は小学校の校庭で下敷き越しに観察をした記憶があり、随分と進歩したものだと感じています。

 

 能にも空を見上げる事があまたあります。例えば月を見る場合、役者は自身思い描く月を想像しながら上を見ます。暖かい大きな月なのか、遠くに見える小さく寒々しい月なのかと。しかし観客は月を見ている役者の姿を見ることで、月を見ているなと想像し、自分なりの月を考えます。

 

 その曲に適うような月を伝えられるのかと、思うことがあります。扇のかざし方、面の傾け方、あらゆる所作に神経を集中します。そこに謡が加わる事で情景が浮かび上がり、なんとかまとまるのだと思っています。

 

 スカイツリーを眺め、空を見上げて、能のふかぶかとした趣きに想いをいたしているところです。

 

 写真 シテ:粟谷能夫 撮影:吉越研

写真 シテ:粟谷能夫 撮影:吉越研

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