阿吽36  観世寿夫賞を受賞して 粟谷能夫

私は昨年十二月に「第三十四回観世寿夫記念法政大学能楽賞」を受賞致しました。この賞は、世阿弥の花の思想を体現し、常に「能とは何か」を問い続け、一九七八年十二月七日、五十三歳で急逝した観世流の能役者、観世寿夫の能界劇界における業績を記念して、遺族からの基金に基づき、法政大学が一九七九年六月に設定したものです。能役者、研究者、評論家、能楽の普及に貢献した個人、団体に贈られ、叔父菊生は一九九一年に受賞しております。

 私は親にうまく育てられたせいか、物心ついた時には能が大好きになっていました。そして、喜多流十五世宗家、喜多実先生へ入門致しました。高校生ぐらいになり井の中の蛙ではいけないと思い、他流の能を観に行くようになり、銕仙会を主宰していらした観世寿夫先生の舞台と出会いました。その舞台は能の全てが詰まった宝の山でした。銕仙会の能は地謡、後見、三役を含め楽屋まで一体となって舞台作りをしており見所も熱気に溢れておりました。そこに観世寿夫先生の強いリーダーシップを感じました。能というものは舞台のすみずみまで目配りし、すべての人たちが力を発揮し、全体として創り上げていくものだということに目を開かされ、能の可能性を感じました。

 寿夫先生の能はそれは素敵なもので憧れました。謡はテンション高く、舞や動きも志を感じさせるもので、舞台を拝見したとき、説得力があり、私の体のなかに衝撃波が走りました。また、先生は世阿弥や伝書などさまざまな文献を研究され、能の改革を行った方でもあります。伝統の中にも現代に通じる能を創造するという心意気がおありでした。私も影響を受け、伝書や文献を読み、能の見直しを行ってきました。

 能夫は寿夫さんにかぶれているよ、などと言われたこともありましたが、寿夫先生に出会い、同時代を共にできたことは、私の能楽人生での悦びです。そしてこのことが、今流儀のなかで生かされていると確信しております。

 この度、能の可能性や現代性等を示してくれ、私に多大な影響を与えてくださった寿夫先生の名前を冠した賞を受賞できたことを大変嬉しく思っています。

 数年前、還暦をむかえた折に、これからは好きな能を舞いつつ、おっとりと生きていこうと考えておりましたが、この賞をいただいて、もっともっと能界に貢献しなくてはいけないし、また、地域文化発展にも努力しなくてはと自分に言い聞かせております。

 『隅田川』 シテ 粟谷能夫(平成25 年3月3日 粟谷能の会) 撮影:吉越 研

『隅田川』 シテ 粟谷能夫(平成25 年3月3日 粟谷能の会) 撮影:吉越 研

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